ウズメの宮
千代神社の創祀は第八代孝元天皇の皇女倭迹迹姫命誕生の時と伝えられている。のち第十七代履中天皇御宇(400~405)に再建されたという。
かつては多賀大社(滋賀県犬上郡多賀町)の末社であった。千代宮と称していたが、明治二年(1869)現社名に改めている。
明治九年(1876)多賀大社に次いで滋賀県で二つ目の郷社となり、村社四十二座が多賀大社、七座が千代神社に附属した。さらに同十六年(1883)には県社に昇格している。
井伊家ゆかりの社寺めぐり 第二番 千代神社 【ちよじんじゃ】 | |
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鎮座地 | 滋賀県彦根市京町二丁目9-33 |
包括 | 神社本庁 |
御祭神 | 天宇受賣命【あめのうずめのみこと】 猿田彦命【さるたひこのみこと】(配祀) 大物主命【おおものぬしのみこと】(配祀) |
創建 | 不詳 |
延喜式神名帳 | 近江國犬上郡 都惠神社 |
社格等 | 旧県社 |
別称/旧称 | 千代宮 |
主祭神は天宇受売命。天照大神の岩戸隠れの時、天岩戸の前で舞い踊り、大神を誘い出した神。瓊瓊杵尊の天孫降臨には五伴緒神の一柱として従い、天之八衢にいた猿田彦神に道案内をさせた。その後猿田彦とは夫婦となる。
神憑りして舞う巫女の神格化といわれる。俳優の祖とされ、芸能を司る神として信仰される。
『多賀大社儀軌』によると、月の前半十五日は夫である猿田彦を祀る山田神社(彦根市野田山町にある多賀大社境外摂社)に夫婦で住し、後半十五日は千代神社に猿田彦を迎えてともに住むのだという。両社の境内にはそれぞれ池があり、両神がいる時に雨乞いの祈祷を行っていた。
幾度かの遷座
千代神社は元は佐和山麓の姫袋の地に鎮座していたらしい。織田信長の時代には近辺の社寺がことごとく兵火に遭ったが、千代宮のみはそれを免れたという。
天正十三年(1585)石田三成が佐和山城を築くにあたり、金亀山(彦根山)麓の尾末(彦根城北東部)に遷されたが、彦根城築城のため慶長六年(1601)に再び旧地姫袋に遷座。
しかし『近江輿地志略』 は彦根城下の河原町にあったのを寛永十年(1633)里根村に遷したとしていて、社伝と異なる。里根村については姫袋と同じ地を指しているとみられる(姫袋村は江戸時代には集落がなく田畑のみだったらしく、『輿地志略』には姫袋村自体が記載されていないので、里根村に含まれたのだろう)が、河原町は尾末町よりもだいぶ南に位置する。
また『滋賀県百科事典』によれば、佐和山城近くにあったが寛永九年(1632)河原町長光寺の境内に移転して同寺の支配となり、同十五年(1638)姫袋に遷座、現在の本殿が新造されたとする。
いずれが正しいのだろう。尾末から一旦河原町に移転したのち、さらに姫袋に遷ったということだろうか。
ともあれ、その後姫袋にあったセメント工場の拡張に伴う粉塵公害を避けるため、社地を工場に譲渡し、昭和四十一年(1966)現在地に移築された。
彦根藩主井伊家代代の尊崇を受けた神社に相応しく、立派な社殿を有する。
三間社流造檜皮葺の本殿は寛永十五年(1638)の築造で国の重要文化財に指定されている。蟇股、手鋏、組物や長押は極彩色に塗装されている。
拝殿は幕末の造営。入母屋造千鳥破風軒唐破風付で坂田郡常喜村(現長浜市常喜町)の名工宮部太平の手になる。
境内には末社が四つ並ぶ。向かって左から笠木稲荷神社・秋葉山神社・天満宮・祖霊社。
式内論社
千代神社を式内都惠神社に比定する説がある。度会延経『神名帳考証』は都惠神社について「今千代社ト云フ 彦根ノ東四五町許リノ山腰ニ在リ」とし、伴信友もそれを支持している。ただし有力とされているのは彦根市竹ケ鼻町の都恵神社(賓臺社)で、こちらも多賀大社の末社だった神社。
『神社覈録』は度会説を引用しつつも「在所詳ならず」とする。
『特選神名牒』は「竹鼻村の方式社なるべし」とし、千代神社説を否定している。
参考文献:
◇度会延経『神名帳考証』 松岡雄淵書写(西尾市岩瀬文庫所蔵) 1760
◇渡辺弘人(編)『滋賀県管内犬上郡誌』 圭章堂 1881
◇鈴鹿連胤(撰)『神社覈録 下編』 皇典講究所 1902
◇伴信友「神名帳考証」『伴信友全集 第一』 国書刊行会 1907
◇日本歴史地理学会(校訂)『近江国輿地志略 下』(大日本地誌大系 第六冊) 大日本地誌大系刊行会 1915
◇彦根実業同志会(編)『彦根案内』 彦根実業同志会 1917
◇太田亮『近江』(日本国誌資料叢書 第三巻) 磯部甲陽堂 1925
◇教部省(撰)『特選神名牒』 磯部甲陽堂 1925
◇摩天楼主人『彦根城頭より俯瞰すれば』 村下活版所 1925
◇角川日本地名大辞典編纂委員会(編)『角川日本地名大辞典25 滋賀県』 角川書店 1979
◇式内社研究会(編)『式内社調査報告 第十二巻 東山道 1』 皇學館大学出版部 1981
◇滋賀県百科事典刊行会(編)『滋賀県百科事典』 大和書房 1984
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