素盞嗚尊神社 社号標と鳥居

素盞嗚尊神社 社号標と鳥居



牛頭天王の宮

 大阪府吹田市江坂町の素盞嗚尊神社、通称江坂神社は千里丘陵の南の端、大阪平野を見下ろす高台に鎮座する。
 江坂は昭和四十年代、大阪万博の開催によって急速に開発が進んだ地域だ。古くは「榎坂」と書いた。中世には「垂水西牧榎坂郷」と称し、奈良春日大社の荘園だった。

素盞嗚尊神社 拝殿

素盞嗚尊神社 拝殿



素盞嗚尊神社
【すさのおのみことじんじゃ】
鎮座地大阪府吹田市江坂町三丁目後山68-11
包括神社本庁
御祭神素盞嗚尊【すさのおのみこと】
天照大御神【あまてらすおおみかみ】
誉田別尊【ほむたわけのみこと】(八幡大神)
創建元暦元年(1184)
社格等旧村社
別称/旧称江坂神社 素盞烏尊神社 感神宮 感神院 牛頭天王社


素盞嗚尊神社 本殿

素盞嗚尊神社 本殿



 社号の通り素盞嗚尊を祀るが、明治以前は素盞嗚尊の本地仏ともされる牛頭天王が祭神だった。牛頭天王は祇園精舎の守護神といわれ、疫病神でありながら疫病を防ぐ除疫神として祀られる。
 榎坂村大字垂水字広芝と小曽根村大字寺内字蛇ハギ谷にそれぞれあった神祠を遷し現在地に併せ祀ったと伝えられているが、それがいつのことかはわからない。
 昭和二十七年(1952)の『神社明細書』には元暦元年(1184)五月に京都祇園八坂神社の分霊を勧請して創建、嘉吉二年(1442)に現在地に遷座したとの記述があるそうだが、そのような古記録・伝承は確認できないとして、神社側では現在その説を積極的に採用していない。
 
 江戸時代には「感神院」とも称した。「感神院」は勧請元である祇園八坂神社のかつての院号だが、それをそのまま名乗っていたようだ。
 表参道の鳥居に掲げられた扁額は現在「感神宮」となっているが、元は「感神院」であったのを明治期に造り替えたのだという。神仏判然令の発布により、仏教色を排除するための措置だった。「素盞烏尊神社」へと社号を変更したのもこの時だ。
 隣接する臨済宗妙心寺派牛頭山松泉寺はもと瑞泉寺と称し(『大阪府全志』は福泉寺とする)、この感神院の神宮寺だった。

素盞嗚尊神社末社 岩本稲荷社

素盞嗚尊神社末社 岩本稲荷社



 宇迦之御魂神うかのみたまのかみを祀る末社岩本稲荷社は伏見稲荷大社内の岩本稲荷よりの勧請と伝わる。

素盞嗚尊神社 家形石棺蓋

素盞嗚尊神社 家形石棺蓋



 明治初年に境内の墳丘状の場所から出土したという家形石棺の蓋が神木の傍らに置かれている。七世紀初めのものと推定される。


小栗判官の道

 素盞嗚尊神社境内の西、神社駐車場敷地内に「油掛地蔵尊」が祀られている。元はおよそ六百メートル南東の吹田街道沿いにあったものを、昭和三十七年(1962)に道路拡張のためここへ移転した。
 油をかけると歯痛が治るとか、諸事祈願成就に効験があるというが、それには小栗判官おぐりはんがんにまつわる謂れがある。

油掛地蔵尊

油掛地蔵尊



 小栗判官は説教節などで知られる伝説上の人物。
 非業の死を遂げた小栗判官は閻魔王の計らいにより蘇るが、業病に侵されており、目は見えず耳も聞こえず口も利けず、満足に歩行もできない。墓より這い出た小栗を保護した遊行上人ゆぎょうしょうにん(時宗総本山遊行寺の住職)は閻魔王より「熊野で湯垢離をすれば元の躰に戻る」と知らされ、小栗を土車に乗せると「この車一曳き曳かば千僧供養、二曳き曳かば万僧供養」と書いた札を首に掛けて熊野へと向かわせる。多くの人に車を引かれ、途中妻の照手姫ともお互い気付かぬまま束の間の再会を果たし、ついに熊野に辿り着く。見事恢復した小栗は自らを殺した者を討ち果たし、さらに人買いに売られ身を落としていた照手姫を探し出して再び夫婦となることができた。
 説教節では概ねこのような物語だが、時代ごと地域ごとに様様なヴァリエイションで語られ、また各地にそれにまつわる伝承が残っている。

 この油掛地蔵に伝わる話は次のようなものだ。
 小栗判官を乗せて熊野へ向かう土車が地蔵の前に差し掛かると、突然動かなくなった。車を曳く者が四苦八苦していると風が吹いて笹薮が揺れた。その音は「あぶらあぶら」と聞こえた。そこで車輪に油を注してみるが、一向に動く気配がない。困り果てた曳き手が残った油を何気なく地蔵にかけたところ、車が再び動き出した。以来村人たちは何かとこの地蔵に油をかけて祈願をするようになった。

 遊行聖や熊野比丘尼といった流浪の宗教者たちが街道を往来し、小栗判官のような説話を辻辻で語り謡った往時の光景が偲ばれる。

素盞嗚尊神社 御朱印

素盞嗚尊神社 御朱印




参考文献:
◇井上正雄『大阪府全志 巻之三』 大阪府全志発行所 1922
◇角川日本地名大辞典編纂委員会(編)『角川日本地名大辞典27 大阪府』 角川書店 1983


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