境界神

 道は、人が往来し、物資や文化をもたらすとともに、時には疫病のような災厄も運んで来た。
 悪しきモノの侵入を防ぐため、辻や村境に神が祀られ、「道切り」が行われた。その神は「道祖神【どうそじん】」「道陸神【どうろくじん】」「塞神【さえのかみ】」など様様な名で称ばれる。

 旧摂津国島上郡下田部村(現高槻市下田部町)の大将軍神社は、魔の侵入から村を守るため、いつの頃からかそこに祀られている。

◆大将軍神社
大将軍神社


大将軍神社
【だいしょうぐんじんじゃ】


鎮座地: 大阪府高槻市下田部町一丁目東五反田17-6

包括: 単立

御祭神:
八衢比古神【やちまたひこのかみ】
八衢比売神【やちまたひめのかみ】
久那斗神【くなどのかみ】
大加牟豆美命【おおかむづみのみこと】

創建: 不詳

社格等: 旧無格社

別称/旧称: 鎮守神社


 下田部村は高槻城の南に位置し、「高槻六口」と称する城の出入口の一つ大坂口から淀川の河港である唐崎や三島江へ至る道の途次にあたる。
 その下田部村の北の境界に大将軍神社が祀られている。神社の面する道は住宅地を貫くなんということのない細い通りだが、江戸時代には多くの人が往き交ったのだろう。
 大将軍神社は明治以後「鎮守神社」と称していたが、平成十六年(2004)に法人名を現社名に改め、氏子による管理となった。近代社格制度の下では無格社。下田部にはもう一つ、上田部の上宮天満宮から分霊を迎えた村社天満神社がある。
 大将軍神社の祭神は八衢比古神・八衢比売神・久那斗神・大加牟豆美命の四柱。境界を守護し、邪を払う性格を付与された神神。

◆大将軍神社
大将軍神社


黄泉路のイザナギ

 イザナミが火神カグツチを生んで死ぬと、イザナギは妻を慕って黄泉国へ赴く。しかし約束を破り、妻の姿を覗き見てしまう。腐乱した醜い姿を見られたイザナミは怒り狂い、八雷神と黄泉の軍団を引き連れて、逃げるイザナギを追う。
 黄泉と地上の境まで辿り着いたイザナギ。そこに生えていた桃の木から実をもいで投げつけると、追手は退走していった。
 イザナギは桃に「私を助けたように、これからも地上の生ある者たちが苦しんでいる時には助けてくれ」と命じて、意富加牟豆美命【おおかむづみのみこと】の名を授けた。 
 さらにイザナギは黄泉の入口を大岩で塞ぎ、この岩を道反大神【ちかえしのおおかみ】と名づけた。
 また、イザナギが「ここから先には来るな」と言って投げた杖から来名戸祖神【くなどのさえのかみ】(岐神【くなどのかみ】)が化生したともいう。
 地上に戻ったイザナギは、死の穢れを落とすため禊をする。身に着けていたものを脱ぎ捨てると、そこから神が生まれた。杖から化生したのが衝立船戸神【つきたつふなどのかみ】、褌から化生したのが道俣神【ちまたのかみ】。

 この神話に登場する道俣神や道反大神が、八衢比古神・八衢比売神に比定される。サルタヒコと同一視されることもある。「ヤチマタ」とはいくつにも分かれた道の意。道の分岐点に坐す神だ。
 杖から化生した来名戸祖神や衝立船戸神が久那斗神。「クナド」は「来な処」で「来てはならない場所」を表すという。禍や邪気の侵入を防ぐ神。「岐」という字をあてることから、やはり道の分岐にいる神で、八衢神と性格が重なる。
 八衢比古神・八衢比売神・久那斗神は道饗祭【みちあえのまつり/ちあえのまつり】において祀られる。毎年六月と十二月、都の四方で三神に供物を捧げて饗応し、鬼魅が都に入らないよう祈願した。それが道饗祭。
 その三柱に、邪気を祓う霊力を持つとされた桃を神格化した大加牟豆美命を加えた四神が大将軍神社に祀られ、下田部村を守ってきた。

◆大将軍神社
大将軍神社


大阪天満宮の大将軍社

 下田部の周辺には、他にもこの四神(またはオオカムヅミを除いた三神)を祀る神社が見受けられる。『大阪府全志』によると島上郡内に下田部大将軍神社を含めて四社あるほか、境内社として存在するものもある。
 これら神社の勧請元は、大阪天満宮の境内摂社である大将軍社ではないかと推定する。
 この大将軍社は大阪天満宮の創建以前から鎮座していたと伝わる。白雉三年(652)孝徳天皇が難波長柄豊碕宮【なにわのながらのとよさきのみや】に遷都した。都の四方で道饗祭が行われたが、宮が廃された後、道饗祭の祭場跡のうち西北の地に祀られたのが大将軍社だった。
 祭神は八衢比古神・八衢比売神・久那斗神・於富加牟津見神【おほかむつみのかみ】。下田部の大将軍神社と同じ。
 京都でも上京区の大将軍八神社をはじめ、四方に方位神として大将軍神社が祀られている。高槻は京都からも近く、これら大将軍神社からの勧請も考えられるが、祭神が異なるので、やはり大阪天満宮の大将軍社から神霊を迎えたものと思われる。
 ひょっとすると、高槻城守護のために置かれたのかもしれない。高槻周辺の他の大将軍神社と合わせて、調べてみる価値はありそうだ。


参考文献:
◇井上正雄『大阪府全志 巻之三』 大阪府全志発行所 1922
◇角川日本地名大辞典編纂委員会(編)『角川日本地名大辞典27 大阪府』 角川書店 1983
◇川口謙二(編著)『日本の神様読み解き事典』 柏書房 1999


大きな地図で表示

このエントリーをはてなブックマークに追加