日ノ御埼を発ち、三尾浦まで戻る。集落の手前で左折し、由良方面へ進路をとる。
 しばらく走ると左手に広大な湿地帯が現れた。阿尾湿地(阿尾不毛)という汽水性の潟湖で、希少な動植物の生息地となっている。不毛【ふけ】というのは湿地を指す言葉だが(「アオ」も湿地を表すらしい)、耕作に適さないことから「不毛の地」の意味だろう。不毛どころか豊かな自然の残る素晴らしい場所だ。まさに「和歌山には海と山と川しかない」という言葉を実感できる風景だ。揶揄などではなく最高の褒め言葉として。

 阿尾湿地を過ぎると間もなく阿尾漁港。その港を見下ろす高台に建つのが阿尾浦の鎮守白鬚神社。

◆白鬚神社 一の鳥居
白鬚神社 一の鳥居

白鬚神社
【しらひげじんじゃ】


鎮座地: 和歌山県日高郡日高町阿尾532

包括: 神社本庁

御祭神:
猿田彦大神【さるたひこのおおかみ】

創建: 天文年間(AD1532~1555)

社格等: 旧村社

別称/旧称: 白鬚明神社 白髭神社


 長い石段を登り猿田彦神の鎮まる社へ。

◆白鬚神社 石段
白鬚神社 石段

 天文(1532~1555)の初めに近江高島の白鬚神社(全国の白鬚神社の総本宮)より勧請したと伝わる。その後衰微したようだが、享保十四年(1729)に浄土真宗光徳寺住職により再興されたことが棟札に見える。

◆白鬚神社 拝殿
白鬚神社 拝殿

 秋の祭礼「くえ祭」は知る人ぞ知る奇祭。高級魚として知られるクエを塩漬けにし干したものを丸太に吊るして御輿に仕立て、それを神前に奉納しようとする当屋衆と阻止せんとする若衆が激しくぶつかり合うという、漁師町らしい勇壮な祭だ。
 しかし高齢化等の理由で平成二十五年(2013)からこの「くえ押し」は行われなくなり、くえ御輿も出さなくなったそうだ。

◆白鬚神社 本殿
白鬚神社 本殿

 社殿はまだ真新しさが残る。平成二十二年(2010)に建て替えられたばかりとのこと。
 この日三度目の猿田彦神へのご挨拶を済ませる。

 このまま海岸線を辿って白崎海岸まで足を伸ばすつもりでいたが、時間の都合で断念。急な思いつき旅は少少無謀な計画だったようだ。和歌山市内に戻り、目当ての店で土産を買って帰路についた。


鮮やかな夢をずっと見ていた
覚めることさえ知らないままで
記憶のなかには「永遠」があること
初めて知った
君を失くして

"Sunset, Side Seat"
lyrics by Natsumi Kobayashi, S.O.S.



参考文献:
◇角川日本地名大辞典編纂委員会(編)『角川日本地名大辞典30 和歌山県』 角川書店 1985






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