♪BGM: "Sunset, Side Seat"
Skoop On Somebody

 ふと思い立って、紀伊半島の西端、日ノ御埼を目指して車を走らせた。

◆煙樹ヶ浜
煙樹ヶ浜

 松林を抜けると視界が一気に開け、波穏やかな太平洋が眼前に広がる。
 きっと誰もがそうする決まり事のように、反射的に窓を開けた。台風一過の抜けるように真っ青な空の下、碧く煌めく海から吹く十月の風が、微かに残る夏の匂いを運んでくる。
 五キロメートル近くに渡って続く白石の海岸は煙樹ヶ浜と称ばれている。画家近藤浩一路が『烟樹ヵ浜』と題してこの浜と松林を描いたのに由来するそうだ。
 秋の煙樹ヶ浜に人影はなく、その上台風の痕跡だろう、流木などが散乱して一抹の寂しさをたたえていたが、それでも海を見ると心が浮き立つのはなぜだろう。

 海岸沿いの道を走ると、程なく右手に大鳥居が現れた。御崎神社へと続く参道が真っ直ぐにのびている。

◆御崎神社 一の鳥居
御崎神社 一の鳥居

御崎神社
【みさきじんじゃ】


鎮座地: 和歌山県日高郡美浜町和田宮脇1788-1

包括: 神社本庁

御祭神:
天照坐大神【あまてらしますおおかみ】
事代主大神【ことしろぬしのおおかみ】
猿田彦大神【さるたひこのおおかみ】
雷大神【いかづちのおおかみ】
豊玉彦大神【とよたまひこのおおかみ】(配祀)
天忍穂耳尊【あめのおしほみみのみこと】(配祀)
天瓊瓊杵尊【あめのににぎのみこと】(配祀)
速玉男神【はやたまのおのかみ】(配祀)

創建: 貞観元年(AD859)

社格等: 旧郷社 国史現在社

別称/旧称: 日御崎神社 御嵜神社


◆御崎神社 石碑 「南海第一 日御崎大神」
御崎神社 石碑 「南海第一 日御崎大神」

 紀伊半島最西端の日ノ御埼を含む、四国に向かって突き出た半島部、その付け根あたりに御崎神社は鎮座する。日ノ御埼からは五キロメートルほど東に位置する。
 社伝によると、現在地に遷座したのが貞観元年(859)。その前は背後の山の中腹にあり、さらにそれ以前は小池荘に在したという。小池荘というのは現社地の少し北、現在の日高町小池の辺りだろうか。
 御崎大明神・日御崎大神として古来篤い信仰を集める日高郡随一の古社であり、国史現在社である。国史現在社とは六国史(『日本書紀』『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』)に記載のある神社という意味だが、通常はそのうち式内社を除いたものを特に指す。
 すなわち『日本三代実録』貞観十七年(875)十月十日の条に「紀伊国正六位上三前神従五位下」とある「三前神」が当社であるとする。ただし、同県東牟婁郡串本町潮岬の潮御崎神社をこれに比定する説もある。
 また、『紀伊国神名帳』には日高郡の官知社として「正三位御崎大神」が挙げられている。こちらは当社のこととしてほぼ間違いないだろう。

◆御崎神社 拝殿
御崎神社 拝殿

 拝殿に掲げられた「海幸舩守」の扁額は紀州藩第十代藩主徳川治宝の筆。

◆御崎神社 拝殿 「海幸舩守」扁額
御崎神社 拝殿 「海幸舩守」扁額

 現在八柱の神が祀られているが、当初の祭神は不明。
 海上交通を司る神であるということを踏まえて現祭神の中から選ぶとすれば、海神豊玉彦か、岬の神としての猿田彦が妥当だろうか。特に猿田彦は太陽神としての性格も指摘されるので、「日」ノ御埼一帯を守護する神として相応しく思える。ちなみに日ノ御埼のピークは日ノ山と称し、猿田彦を祀る日ノ山御崎神社が鎮座する(当御崎神社からの勧請)。

◆御崎神社 本殿
御崎神社 本殿

 千百五十年前に現在地に遷った際、境内に数百株のウバメガシを植えたという伝承があり、近年に至るまでそのうちの二本が残っていたが、一本は平成二十二年(2010)に枯死して今は切り株だけになってしまった。最後の一本が社殿の脇に枝を広げている。

◆御崎神社のウバメガシ
御崎神社のウバメガシ

 境内を後にし、真っ直ぐのびる参道を戻る。一の鳥居越しに見る水平線が美しい。
 さて、日ノ御埼灯台に向かおう。


人影も消えて
さびついた足跡
月日は流れ
裸足ではもう歩けない僕

"Sunset, Side Seat"
lyrics by Natsumi Kobayashi, S.O.S.


次の記事へ続く》


参考文献:
◇田口卯吉(編)『日本三代実録』(『国史大系』第四巻) 経済雑誌社 1897
◇鈴鹿連胤(撰)『神社覈録』 皇典講究所 1902


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この記事のテーマに選んだM9 "Sunset, Side Seat" は秋の海で失くした恋に想いを馳せる切ない一曲。個人的には軽快なM5 "Summer Ride" からのコンボで一層沁みます。そしてタイトル曲となるドラマティックなラヴソングM6 "Key of Love" は必聴の名曲です。
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